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高取土佐町並み

 古墳時代から飛鳥時代の貴重な遺跡が残る高取町。『日本書紀』には612年に推古天皇が“ くすりがり”に訪れたとある。1400年以上経った今もなお、清々しい空気と豊かな緑に満ち、訪れる人をじんわりと癒してくれる「くすりの町」だ。

 6~7世紀、飛鳥の都が造営される折には各地の人がたずさわった。帰郷叶わず、この地に根を下ろした人々もいたという。町に残る土佐、吉備、薩摩の地名は、彼らの望郷の想い。ここはまた、飛鳥の都と吉野離宮とをつなぐところでもあった。天武天皇、持統天皇は峠を越え、幾度となく都と離宮を行き来したと紀は伝える。

 石畳が美しい土佐街道。日本三大山城と称えられた高取城の城下町風情が、かつての町の様子を醸し出し、今ある町の魅力を香り高くしている。

 この道を中心として、春には「町家の雛めぐり」、秋には「町家の案山子めぐり」が開催される。住まう人たちが、自分たちにできることを持ち寄り、訪れる人たちをもてなし交流する。これがすごい熱量なのだ。

 その「町家の案山子めぐり」と同じ期間、高取町で初めての「はならぁと」を開催する。人と場がギュッと凝縮して起こる顛末に注目してほしい。


はならぁと 2016 こあ
開催エリアまちづくり団体:天の川実行委員会
開催日程 : 10月1日(土)- 10月31日(月)10:00-16:00 入場無料
– キュレーター : 遠藤 水城  – 同時開催 :第8回 町家の案山子めぐり

 

遠藤水城
はならぁと こあ「人の集い」

キュレーター 遠藤水城

2009年、「福岡アジア美術トリエンナーレ」協力キュレーター。「ヨコハマ国際映像祭2009」キュレーター。2011年、「曽根裕展:Perfect Moment」(東京オペラシティアートギャラリー)ゲストキュレーター。現在、「東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス」エグゼクティブ・ディレクター。
 


カラスが怖れるものを人間は怖れない。

人間が愛するものをカラスは怖れない。

カラスが民衆に変わるとき人間は革命に変わる。
 

遠藤水城(「人の集い」キュレーター)

今回の展覧会は、「案山子めぐり」についてのものです。「案山子めぐり」そのものだと言っても構いません。だから「人の集い」という展覧会タイトルはもしかしたら必要なかったかもしれない。これを展覧会と呼ぶのも、少し無理があるように思います。これは「案山子めぐり」であって、それ以上でも以下でもない。

毎年10月に奈良県高取町土佐で開催されている「案山子めぐり」は、至極幸福な、愉快な、無邪気なものであり、それゆえに、一見するとまったく非政治的・非美学的に見えますが、そこには確実に政治と美学が宿っている。街路にたたずみ、どこかここではない世界を、間延びした態度で眺めているような彼らは、人間の営為による立体造形物です。

「案山子めぐり」では、あるコンセプトが表明されています。一言で言うと、それは、自分たち人間の幸せが、ある限定のうちに封じ込められている、ということです。その幸せは、高度経済成長と消費社会、ポジティヴな変化のある時代、物質的豊かさの追求といった背景のもとにあり、それらが人間の似姿という外観のうちにとどまっている。その幸せを享受しているのは、いまの私でも、過去の私でもなく、いまここに、目の前にある案山子たちなのです。案山子は通常、牧歌的な時代錯誤として現れますが、ここでは一つの時代の幸せそのものとしてある。しかしそれは、残念ながら、動かず、大きくならず、死んでいる。

それが動かず、大きくならず、生きておらず、変化しない案山子だからこそ、不純にうごめく豊かさの複合体のような、無垢な幸せがそこに結晶化する。これは、奈良という土地について、その歴史について、あるいは天皇制を理解するうえで、とても重要なことです。言うまでもなく、それは現代美術を原理的に遂行する者にとっては、おおいなる敵なのです。

しかし、そこで戦争をしない方法を試さなくてはならない。これが、この「人の集い」という企画の出発点です。不純なる豊かさ、無邪気な幸せは、それ自体はなはだ遺憾なものですが、それらがすでに非人間的な形象のうちに留まっていることは、むしろ僥倖と言える。つまり、繰り返しますが、それらはすでに「作品」なのです。である以上、それは条件と限界のうちにある。

雨宮庸介、石垣克子、島崎ろでぃー、捩子ぴじん、本山ゆかりという5名の作家が今回の、展覧会(結局、展覧会という言葉を使いますが)に参加しています。彼らの作品が表明しているのは、それらが遍在するということです。散在している。人のいない世界に捨て置かれている。それはとても不幸せなことです。それに引き換え、案山子たちは、いまこの場所に確かにある。じっと動かずに、彫刻作品として、資本主義的な幸福の無垢な表皮として、中身のない人間として、佇んでいる。

案山子たちの背後で、小さな作品たちは、まったく底抜けに散逸していく。無数にある、暗い秘密の穴の方に向かって、光の速さで進んでいる。暗い穴は、カラスの目のように黒く光っている。この展覧会の成功は、案山子たちが、その首を動かし、穴を目視し、そこへ向かってゆっくりとでも歩むことができたかどうかにあります。そこで二つの運動が生まれる。

あなたの目は、その動きにじっと注がれています。幸せに死んだ彫刻たちと、錯乱した分子のような作品たちと、穴と、の直線上にできた流れ。その渓流のような、星の運行のような、誘惑の駆け引きのような、現象をみている。その現象を見ているあなたは、ようやく、人間でしかない。やっと人間である。そのようにしか人間は肯定できない。このような、逆説を保持することが、コミュニケーションが透明化され、欲望が微分化され、期待が数値化され、未来の時間が今の危機へと投げ返されてしまう現在にあって、芸術ができる、とても強い方法論、こう言って良ければ、希望の技術なのです。

この希望の技術を共有している人が、あなたの隣にいる。たくさんいる。この展覧会を一つの条件として、それが確認できたならば、それが「人の集い」ということになると思います。条件さえ整えば、無為の共同体は、いつでも可能だ、ということです。そうやって、人は、めぐりめぐって、ともに還ってくる。


アーティスト

 

こあイベント

捩子ぴじん 公演

開催日時:10/22(土)、23(日)、29(土)、30(日)
会  場:高取土佐エリア内各所

捩子ぴじん
2000年から04年まで大駱駝艦に所属し、麿赤兒に師事する。
舞踏で培われた身体性を元に、自身の体に微視的なアプローチをしたソロダンスや、体を物質的に扱った振付作品を発表する。

ツアー

キュレーターによるガイドツアー

開催日時:10/10(月・祝)14:00-15:30
ガイド :遠藤 水城
集合場所:インフォメーション(下土佐公民館別館)前
予  約:不要

アートってなんだろう?子ども限定ツアー

開催日時:10/16(日)14:00-15:30
ガイド :はならぁと事務局
集合場所:インフォメーション(下土佐公民館別館)前
予  約:不要

地域連携企画

第8回 町家の案山子めぐり

日時:10/1(土) -10/31(月)
   10:00-16:00
主催:天の川実行委員会


高取の四季と灯り

企画:奈良大学総合社会学科
会場:夢創館 2階

ガイドブック巻末ふろくの持ち込み企画を計画中です。